美しく生きるということ――がんサバイバーの1人として

§5 最先端治療を自分の体で試す


冒頭でも書いたように、乳がんが発覚した時、私は心の中で、がん宣告という深刻な状況を受け止めつつも、「これで最先端治療を自分自身の体で試して、その良し悪しや効果を確かめることができるかもしれない…」という、別の思いもわき起こっていました。

実際にがんになって、その痛さや、つらさ、心理状態、そして治療プロセス等を実体的に内側から経験するわけですから、私の言葉は、それなりに重く受け止められるようになり、単純に「素人のくせに…」とバカにする人は、あまりいなくなっていきました。

診察してくれた医師は、手術での切除と、その後の抗がん剤治療を勧めました。それはごく一般的に行われている方法で、医師としては当然の提案だったと思います。私の夫も、「早く切ってほしい」と言っていました。

ところが私は、手術も抗がん剤もせずに、いま関わっている遺伝子治療で治したいと伝えました。その私の決意が固いことを受けて担当医は、いつでも手術できるような体制で待っていてくれるということになりました。

ちなみに、私は手術などの一般的な治療法を頭から否定しているわけではありません。がんの種類やステージによって有効かつ最善な方法は異なります。もし私に早期の大腸がんが見つかったら、きっと即切ってもらうでしょう。ようするに、治癒の確率やその後のQOLなどを総合的に考えて、一番良いと思われる方法を選ぶべきだということです。

遺伝子治療の研究は順調に進んでいて、日を追うごとにその成果が上がっていました。投与する治療剤もちょうどパワーアップした新しいものができたところでした。

それでも私は、まずは古いほうから試したい、と申し出ました。古いものと新しいものがどう違うのか、自分で感じてみたかったからです。

「手術をしないのなら、せめて新しいほうを」という夫の意見も、「今後のためにもいろいろ試してみたい」と押し切りました。結果的に、古いほうを2回、新しいほうを4回、エコーガイド下で週1回の割合で局所注射しました。その後もバージョンアップした治療剤の局所注射をCTガイド下で行うなど、治療法の違いもいろいろ体験しました。このあたりは少し専門的な内容になるので、また別の機会に詳しくご紹介できればと思います。