美しく生きるということ――がんサバイバーの1人として

§12 美しさとは「生命の輝き」/衣料から医療へ


震災を境に、がん最先端治療に関わることを決意して、それからたくさん、本当にたくさん勉強しました。がんで苦しむ人や、その家族を助けたい、笑顔を取り戻してあげたい――かつてファンデーションビジネスを始めた20代の頃よりも、より一層強い情熱がわいていました。

とはいえ、「医療の専門家でもないのに」「素人のくせに…」と、まともに相手にされないことも少なくありませんでした。それでもめげずに法人設立に向けて資金集めや人脈づくりなど、忙しく準備を進めていた時、なんと私自身が乳がんになってしまったのです。

 がんが発覚した時、私の心は思いのほか平静でした。がんに対するしっかりとした知識があったことも大きかったでしょう。それと共に、私自身が最先端治療を体験することができるという、むしろどこか肯定的な気持ちもありました。心配する夫を元気づけるためにも、私は「がんになったことを悔やんでも仕方ないし、どうせなら自分の体で遺伝子治療を試してみたい」と言いました。

そうしてその2年後の2015年、ちょうど50歳になる年に、がん最先端治療の研究や臨床をサポートする「株式会社GENE REMEDY研究所」を起ち上げたのです。

さらにその3年半後には、その最先端治療を実践するクリニックを東京・四谷三丁目に開設しました。そこでは、私が考える理想の治療技術や、治療環境を提供したいと考えています。

また近いうちに、がんと闘う人、がんと共に生きる人を総合的に支援するためのコミュニティ「がんサバイブの会」を起ち上げる予定です。

なにはともあれ、さまざまな試練を越えて、こうして私は「衣料から医療へ」と、全く新しい分野へと踏み出すことになったのでした。

なんだかダジャレのようですけど、どちらも人間生活の根本的なところに関わっているという共通点もあるように感じています。健康であることは生きることの土台ですが、ファンデーションも、もともと土台という意味です。

これまで述べてきたように、美に対する意識は経験を積むごとに変化し、深まってきましたが、「美しく生きる」ということを追求するという姿勢は、いまも全く変わっていません。

美の本質は、単に外見や姿形に現れるのではなく、むしろ目に見えない所にこそ隠されているものだと感じています。

 しかしながら、それは必ず目に見える形として現れてくるというのも事実です。家族を愛し、人に優しく、そして自分を大切にしている人には、どんなに隠そうとしても、にじみ出る美しさがあります。

そうした人にとっては、生きているということそれ自体が美しいことであるともいえるかもしれません。

美しさとは生命の輝きです。美しく生きたいと心に願うとき、その人のなかではもうすでに美しさが輝き出していると、私は思います。

―私自身のがん闘病体験や、がん最先端治療に関する詳細は、別テーマ「がんを生きる」のほうをご覧ください。―