§1 美しさとは「華奢で、細く、かよわいこと…?」

まだ20歳になる前のことです。茨城で一般の事務職に就いていた私は、ある日ふと「東京が私を呼んでいる」という思いにかられ、その翌日ボストンバッグに荷物をまとめ、着の身着のままで上京しました。東京駅までの電車賃を払うと財布に残ったお金はたった270円。青春ソングにありそうな話ですが、本当のことです。
東京に出てきたばかりの私は、自分の体形――とくに太い下半身に強いコンプレックスをもっていました。
ある時、満員電車に乗っていて急ブレーキがかかり隣の男性の足を踏んでしまったことがあります。すぐに謝ったのですが、すごい目つきで睨まれてしまいました。ところがその男性の反対側にいる華奢な女性が倒れかかってくると「大丈夫ですか」と助け起こしてあげたんです…。ショックでした。

なんとか痩せようと思って、スポーツジムやエステ等にも通いました。お金もたくさん使いました。だけど、インストラクターやエステティシャンから「ここはダメ」、「キレイになるためには、こうしなければダメ」と、本当ならキレイになることは楽しいことなのに、後ろ向きの言葉や否定されるばかりで次第に気持ちがついていけなくなり、長く続きませんでした。
それでもとにかくもっと痩せなければ自分の人生に希望はないと思った私は、強い決意でダイエットに取り組みました。パイナップルばかり食べて1か月半で10kgの減量に成功しました。ところが鏡に映った「あこがれの華奢な体」は、決して美しくなかった…。
目の前が暗くなって倒れ、救急車で病院に担ぎ込まれてしまいました。朦朧とする意識のなか、「華奢で、細く、かよわいこと」と「美しさ」は同じではないと、ようやく気づいたのです。